「靴を買う」
- tanazawahanae317
- 3月16日
- 読了時間: 3分
更新日:3月16日

最近靴の絵を描いた。鮮やかなグリーンのフラットシューズ。2013年にイタリアのミラノで買い求めたものだ。
絵本作家への筋道を探そうと、その道を目指す人なら誰もが知っている(と思われる)ボローニャ絵本原画展が目的だった。前年初めて訪れ、二度目の挑戦だった。
一年目は全てが最高で、天候も良く、出会いも気分も上々だった。フィレンツェやヴェネチアを巡れたこともキラキラと輝く良い思い出である。
二度目のイタリアは、打って変わって全てが「冷た」かった。三月で寒さのピークは過ぎていたものの、一週間の滞在中ほとんど晴れ間はなかったように思う。
世界中から数々の出版社がブースを連ねる中で、絵本作家志望者達は、自らのポートフォリオを脇に抱え、一社でも多く作品を見てもらおうと四苦八苦していた。二日間成果を感じない中で、私は一社(アメリカの出版社だったと思うが)に冷たく追い出され(「今商談中って文字が見えないの?」と柱に貼られた小さなメモを指差された)、それまでギリギリ保っていた心がついにパリンと割れてしまった。三十も過ぎたいい大人が、大きな会場の隅まで行ってブースの影に身を隠し、メソメソと泣き始めてしまったのである。
……
残りの数日は、勉強と観光を兼ねて、ミラノへと足を延ばした。街歩きに当てがった日は、曇り。午後からはしっかりと降られてしまった。冷たい雨は灰色の街並みをより一層暗くした。そんな中、なんとか楽しみを見出そうと歩く。
たくさんのお店が並ぶエリアで、私は一軒の靴屋に入り、緑色の革のフラットシューズを見つけた。
イタリアは職人の国だけあって上質な物が多く、日本で買うよりも随分と安い。その靴は50ユーロだった。日本では一万円以上はしそうに思えた。
私の足は日本人にしては細く薄いらしく、今まで様々試した中で、いわゆる「シンデレラフィット」と言うような、履いた瞬間に「自分の靴」と分かる靴はどれもイタリア製であった。
緑のフラットシューズを見つけた時の自分の感情は不思議と覚えていないのだけれど、その時の女性店員の態度が妙に冷たく感じられたことが何故か強く印象に残っている。
何かうまくいっていないと感じていた二度目のイタリア滞在は、一度目と違い、「もう帰りたい」とすら思った。そんな理由で早めに空港へ行き、5時間も待ってカウンターに向かったら、なんと自分の座席がダブルブッキングされていてその日は帰れないという!綺麗めなホテルをあてがわれ一泊し、翌日パリ経由で日本へ。この際生じた金銭的な問題はパリの空港で対応するからと言われ、シャルル・ド・ゴール空港を一度入国手続きまでして信じられない距離を歩きカウンターまで辿り着いた。すると、なんと「ここでは対応できない」の一言。その瞬間、私はイタリアで受けた数々の冷遇と悲しみが一気に怒りとなって爆発し、人生一大人気のないクレームをエール・フランスの職員に向かって号泣と共に浴びせ始めた。なぜあんなにも感情的になってしまったか、向こうは皆目見当もつかなかったであろうが、私には十分過ぎるほどに十分だったのである。今にして思えば、陰気なオーラを発していたのはきっと私の方で、それに報いるかのように全てが起こっていたのかもしれないが、一度空回りするとなかなか修正できないものである。未だ笑い話にもなっていない悲しいイタリア体験談である。
最近新しいフラットシューズを購入したのをきっかけに、いい加減処分しようと描き起こしてみたものの、呼び起こされる数々のしがない思い出と、ペラペラなのに永遠に歩けそうな履き心地の良さも相まって、棄てるに棄てられない一足となってしまっている。
(2月20日筆・50分?)

真冬以外は使えるかわいいこなんだ・・・
zuihitsu・・・前日自分に課したキーワードをお題に、最低400字(原稿用紙1枚)で書く練習をしているものの一部出し