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「時計」


Her Profile 彼女の横顔 2025 © Hanae Tanazawa
Her Profile 彼女の横顔 2025 © Hanae Tanazawa

 たまたま「時計」というお題に取り組むことになった今日は、3月11日である。14年前の今日、14時46分に、東北大震災が起こった。地震発生時刻のまま止まった時計が現地に残っている映像を見たように思う。


 物理的に止まってしまった彼の地の時計のように、それ以降動かなくなってしまった目に見えない時計の数はどれほどだろうか。後に残されたまま止まってしまった人間の心の針は、愛する人を救えなかった後悔や、未だに救出できずにいる罪悪感、自分だけが生きて幸せになることへの後ろめたさなど、様々なものが絡み合って簡単に動かせるものではない。

 私自身は、比べるのが申し訳ないレベルかもしれないが、自分の不手際で愛猫を真冬の山中に失踪させた時、初めて行方不明者の家族の悼みに近いものを自分の痛覚に感じた気がする。5ヶ月間粘って生きた愛猫と再会できたのは奇跡であったが、仮にそれ以上かかったとして、私に諦めがつくタイミングなどその後訪れただろうかと、4年以上経った今でも思う。

 相手を最後に見た瞬間の映像が何度も何度もフラッシュバックされ、そこから少しずつ時計の針を巻き戻しながら、どの時点のどの自分の判断が誤りだったのだろうと、救いようのない答え探しが止められない。死を確認できずにいる突然の別れは、いつまでも希望が残る分だけ残酷である。


 この止まってしまった時計の針を再び動かすことができるのは、結局のところその時計の所有者のみであるように思う。こればかりは、時間が勝手に解決するということはなくて、それはただ記憶が薄れて忘れるに近い状態になれるのがせいぜいなのかもしれない。

 「あの日」停止した時計の針をまた動かして、「今」という時間に追いつくようになるには、ほんの少しの「意図的」な動力、例えば時計の文字盤を開いて針を指で押す、だとか、電池を替えてネジを巻く、というような、ちょっと物理的で能動的な行動を自ら起こす瞬間が必要になるだろう。そこに至るまでの時間は苦難であり、同時に癒しでもある。


 改めて、2025年の今日という日より、東北の止まったままの時計に、祈りを。



(3月11日筆・35分)



 

zuihitsu・・・前日自分に課したキーワードをお題に、最低400字(原稿用紙1枚)で書く練習をしているものの一部出し



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