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DIC川村記念美術館

  • tanazawahanae317
  • 4月19日
  • 読了時間: 4分

更新日:4月30日


夕暮れ時のDIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)
夕暮れ時のDIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)

昨日図書館から借りていた原田マハさんの『デトロイト美術館の奇跡』という小説がじんわりと感動的で、3月末に休館となった千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館のことを(一度は書くタイミングを逸したと思ったのだけど)やっぱり記録しておこうという気持ちになりました。


ずっと行きたくて、でもフラッと行くには遠くて何年も及び腰だったのだけど、閉館と知れば行かない訳には行かない。Instagramのストーリーズで「行かなきゃ」と呟いたら、「行く?」と誘ってくれた仕事仲間(一人はクライアント)と3月21日、千葉在住のクライアントが車を出してくれて訪れることができました。


結論から言うと、最初で最後になってしまったのは残念だったとは言え、たった一度だけでも行けて本当によかった。エントランスから、内装から、ライティングから、導線から、演出から、キュレーションから、ポリシーから、お庭から・・・アートに対する深い愛とリスペクトを感じる本当に素晴らしい美術館でした。


展示作品は一つ一つが名品で、しっかりと誠実な目で選ばれここに来たと言うのがひしひしと伝わってきたし、テーマごとに作られた部屋の世界観は統一感と、一点一点に対するリスペクト(作品と作品の間に心地良い”間”があったこと)、自然光を調整できる小窓や、ドキドキを演出する薄暗く湾曲した登り階段、そこから導かれる明るい自然光のホール。屋外の風景を美しく切り取る窓など・・・。こんなに考え抜かれた美術館はなかなかないなと、展示された作品と同じくらい建築そのものに魅了され尽くしたのでした。


私の一番のお目当ては、日本で唯一マーク・ロスコが観られるロスコ・ルーム。普通の展示に比べたらだいぶ暗めのライティングはロスコ作品群7点の鑑賞には完璧で、それらは荘厳な瞑想部屋とも言える空間で静かに佇んでいました。


・・・


美術館をビジネスとして存続させる上で、もっとチケットは高くても良かったのだという意見がある一方で、佐倉という土地柄に加えて、アートの敷居をなるべく低くしておきたい狙いもあったのではとその辺は擁護したい気持ちにもなりました。

アートを純粋に美しいもの・芸術として鑑賞する人間がどれだけいるのか。一方で「資本」として売り買いする人間が多いのも事実だけれど、少なくともこの美術館は35年間アートへの純粋な愛がモチベーションの中心としてあったのだというのが隅々に感じられました。


例えば、中では写真撮影が一切禁止であること。それは他の鑑賞者への配慮もあるし、「今ここ」でしかできない体感を大事に味わってほしいという想いがあるから。館内で撮影を許して拡散してもらえば客足は増えるはずなのだけど、それを許さなかったことが美術館を守ったとも、守らなかったとも言える(#タグ付けも禁じていたとか?)。その時代の波に乗らなかった愚直さが私には高潔に感じられてとても好きでした。

またタイトルや基本情報以外に解説がなかったこと、「言葉数」が最小限に抑えられていたことにもアートを純粋に心で楽しんでというメッセージを感じたし、部屋によっては作品だけが壁の高低を利用してずらりと展示され、タイトルはQRコードで調べないと出てこないくらい、「(名前はいいから)作品を観て!」と主張する部屋があったのも印象的でした。


・・・


話の冒頭に戻るけど、原田マハさんの『デトロイト美術館の奇跡』は実話を元にしたフィクションで、デトロイト美術館の存続が危ぶまれ、本気で美術館を愛する人たちの愛と発想で危機を免れるという展開になっています。

小説とは異なり、DIC川村記念美術館は外資系資本に買われ、作品の3/4が売却され、残りは都内に移転されるということになり、美術館ファンを悲しませました。


どんな世界もそうだけど、純粋な気持ちとそうでないものがせめぎ合い、常に勝ち負けみたいな仕組みになっていることをつくづく悲しく感じます。アートの価値とはなんでしょう?どうして私たちは、美しいものをただ美しいというだけで受容することができないのでしょうか。どうして何かの意味付けをしようとしたり、有用にしようとしたり、数値化しようとしたりするのでしょうか。そこを抜けていくメンタリティが育つことはあるのでしょうか・・・。



DIC川村記念美術館で購入した画集より佐藤忠良氏の「緑」を模写
DIC川村記念美術館で購入した画集より佐藤忠良氏の「緑」を模写





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